《カシス・オレンジ》は本当に山札を好きな順序に並べ替えられる
よく言われている割にあまり自明ではない気がする。
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マーシャルループ
ここ最近急速に流行りはじめたマーシャルループ。最近だと《逆転の影 ガレック》や《学校男/ゾンビ・カーニバル》を採用したドロマー型が主流なのもあり、ファンタジー BEST 発売直後に主流だった青白型は影を潜めてしまいました。
とはいえ、青白型に全く利点がないかというとそういうわけでもなく、特に《マーシャル・プリンス》によるループインのしやすさやループ手順の簡単さには依然として魅力があると考えています。相対的に安いしね。
山札固定
そんな青白型でよく《マーシャル・クイーン》の進化元として使われるのが《カシス・オレンジ/♥応援してくれるみんなが元気をくれ~る》。下面はよくある 2 ドロー、上面の cip は山札上 2 枚を見て好きな順序で上か下に送れる山札固定です。
この上面の cip をループによって無限回使える状態のとき、「山札を見て好きな順序で固定できる」というように説明されることがよくあります。
本当に?「山札を見て、好きな順序で並べ替える。」というようなテキストならともかく、上記の操作を無限回繰り返すことで好きな順序で固定できるのでしょうか?
一部を入れ替える操作を繰り返して特定の順序・配置にするという点では、 15 パズル に類似性が見られます。 しかし、 15 パズルは絶対に解く(数字を順番に配置する)ことができない初期配置があることが知られています。
結論から言うと、《カシス・オレンジ》は十分な回数 cip を使うことで山札を好きな順序に固定できます。 それをちゃんと数学的に証明してみようじゃないか、というのがこの記事の趣旨です。
証明
主に数学的帰納法を使いますが、多分群論とか使うともっと簡単に示せる気がします。
準備
山札 $ D = \lbrace A, B, \; \dots \rbrace $ に対し、《カシス・オレンジ》の cip の操作は次の 6 つのうちいずれかになります。
$$ M_1: {\lbrace A, B, \; \dots \rbrace} \to {\lbrace A, B, \; \dots \rbrace} \\ M_2: {\lbrace A, B, \; \dots \rbrace} \to {\lbrace B, A, \; \dots \rbrace} \\ M_3: {\lbrace A, B, \; \dots \rbrace} \to {\lbrace A, \; \dots, \; B \rbrace} \\ M_4: {\lbrace A, B, \; \dots \rbrace} \to {\lbrace B, \; \dots, \; A \rbrace} \\ M_5: {\lbrace A, B, \; \dots \rbrace} \to {\lbrace \dots, \; A, B \rbrace} \\ M_6: {\lbrace A, B, \; \dots \rbrace} \to {\lbrace \dots, \; B, A \rbrace} $$
このうち、$ M_1, M_3, M_5, M_6 $ は $ M_2, M_4 $ の組み合わせによって表現することが可能です。
$$ M_1: {\lbrace A, B, \; \dots \rbrace} \stackrel{M_2}{\to} {\lbrace B, A, \; \dots \rbrace} \stackrel{M_2}{\to} {\lbrace A, B, \; \dots \rbrace} \\ M_3: {\lbrace A, B, \; \dots \rbrace} \stackrel{M_2}{\to} {\lbrace B, A, \; \dots \rbrace} \stackrel{M_4}{\to} {\lbrace A, \; \dots, \; B \rbrace} \\ M_5: {\lbrace A, B, \; \dots \rbrace} \stackrel{M_4}{\to} {\lbrace B, \; \dots, \; A \rbrace} \stackrel{M_4}{\to} {\lbrace \dots, \; A, B \rbrace} \\ M_6: {\lbrace A, B, \; \dots \rbrace} \stackrel{M_2}{\to} {\lbrace B, A, \; \dots \rbrace} \stackrel{M_4}{\to} {\lbrace A, \; \dots, \; B \rbrace} \stackrel{M_4}{\to} {\lbrace \dots, \; B, A \rbrace} \\ $$
よって、《カシス・オレンジ》の cip の操作は以下のように簡略化することができます。 $$ X: {\lbrace A, B, \; \dots \rbrace} \to {\lbrace B, A, \; \dots \rbrace} \\ Y: {\lbrace A, B, \; \dots \rbrace} \to {\lbrace B, \; \dots, \; A \rbrace} $$
山札が 2 枚のとき
このとき、操作 $ X $ を実行することで 2 枚全ての順序を入れ替えられます。よって、山札を好きな順序で固定することができます。
山札が $ n \; (n \geq 3) $ 枚以上のとき
操作を $ X \to Y $ の順序で行うと、山札の 2 枚目を山札の下に送ることができます。この操作を $ Z $ とします1。
$$ Z: {\lbrace A, B, \; \dots \rbrace} \stackrel{X}{\to} \dots \stackrel{Y}{\to} {\lbrace A, \; \dots, \; B \rbrace} \\ $$
ここで、山札の 1 枚目 を $ i $ 枚目に挿入する操作 $ I_{n,i} $ を考えてみましょう。
$$ I_{n,i}: {\lbrace A, c_2, \; \dots, \; c_n \rbrace} \to {\lbrace c_2, \; \dots, \; c_i, A, c_{i+1}, \; \dots, \; c_n \rbrace} $$
$ I_{n,i} $ は、$ Z $ を $ i - 1 $ 回実行して $ Y $ を $ n - i + 1 $ 回実行することで達成できます。
具体的な例として 山札 A B C D E があったときに A を 4 枚目に挿入することを考えます。 $ Z $ を 3 回、 $ Y $ を 2 回実行すると以下のように遷移します。
A B C D E
Z A C D E B
Z A D E B C
Z A E B C D
Y E B C D A
Y B C D A E
B C D A E
さらに、山札の 1 枚目と $ i $ 枚目を入れ替える操作 $ R_{n,1,i} $ は $ I_{n,i} $ を 1 回、 $ Y $ を $ i - 2 $ 回、$ Z $ を $ n - i + 1 $ 回実行することで達成できます。
$$ R_{n,1,i}: {\lbrace c_1, \; \dots, \; c_i, \; \dots, \; c_n \rbrace} \to {\lbrace c_i, \; \dots, \; c_1, \; \dots, \; c_n \rbrace} $$
そして、山札の $ i $ 枚目と $ j $ 枚目を入れ替える操作 $ R_{n,i,j} $ は $ R_{n,1,j} \to R_{n,1,i} \to R_{n,1,j} $ と実行することで達成できます。
$$ R_{n,i,j}: {\lbrace \dots, \; c_i, \; \dots, \; c_j, \; \dots \rbrace} \to {\lbrace \dots, \; c_j, \; \dots, \; c_i, \; \dots \rbrace} $$
あとは選択ソートの要領で好きな順序に固定することができます。 $ Y $ を $ n $ 回実行すればその時点の山札の順序を全て把握できるので、交換するべきカードの位置を特定することができます。
おわりに
最終的に得られた操作 $ R_{n,i,j} $ についても、直接 3 枚目以降の山札を見ているわけではないことに注意が必要です。 十分な時間と十分な記憶能力があることを前提にしているので、最終的にこれら全ての操作の省略として「山札を見て好きな順序で並べ替える」という動作に還元できるかは現場での判断になるかもしれないです。 まあ大多数のループコンボはそういうところを省略してプレイできるような裁定・判断になっていると思うので多分大丈夫だと思いますが……。
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まあ結局最初の $ M_3 $ と同じなんだけど、一回集約するのに意味があります。多分。 ↩︎